兼業投資家キリンの株式投資ブログ

本業では会計・法人税関連の実務を細々行う兼業投資家の投資メモ、仕事論などを綴ります

投資初心者の方も知っておきたい「のれん」についての基礎知識

7/19日経新聞朝刊1面にM&Aに係る「のれん」の減損損失が増加している旨の記事がありました。
と、朝のモーサテで言ってましたw

私は今春まで長らく某社で連結財務諸表を作成する仕事をしていたので、のれんとも触れ合う日々を過ごしてきました。

今回は、投資初心者の方も知っておいて損はない「のれん」の基礎知識を解説します。

※なお、正確な会計基準に基づく文言ではなく、理解のために表現を崩して記載しますので、正確に知りたい方は各会計基準を参照ください。


1.「のれん」とは

「のれん」とは、企業がM&A(買収・合併)で支払った金額のうち、買収先企業の「純資産(=資産ー負債)」を上回る金額を言います。
逆に、支払った金額が買収先企業の純資産を下回る場合は、その差額を「負ののれん」と言います。

実務上、大半のM&Aのケースでは「のれん」が出るのが一般的です。

我々投資家が株を買う際はできるだけ安く買いたいと思うように、企業がM&Aをする際も安く買えるにこしたことはありませんが、実際には純資産価値だけではなく、ブランド力や既存事業とのシナジー効果などのプレミアムを見込んだ価格で買収することが多いためです。

ここからはおまけですが、実務上はこの「純資産」を算出するまでが超絶大変です、、

「資産ー負債」と書きましたが、【資産・負債の各勘定科目について、できる限り買収時の時価で評価し直せや】という会計ルール(企業結合会計基準の考え方)があり、買収案件に接する経理担当はここで悶絶するのがデフォです。

大型の出資になるとコンサルを入れてデューデリジェンスを行うことになりますが、コンサルから提出されたアウトプットを会社なりに整理して監査法人に説明して合意を得るまでには軽く数ヶ月は要することがザラにあります。

というわけで、苦労して算出した"バーチャルな純資産"と出資額を比べる形で、皆さんが財務諸表で目にされる「のれん」の金額は算出されています。


2.のれんの会計処理

ここまでの話は単なる知識ですが、投資家としては財務諸表にどういう影響があるか、という視点が重要になりますね。

まず、上で書いた苦労して算出したのれんの金額、これは貸借対照表の無形固定資産に「のれん」という勘定科目で計上します。
その後、「20年以下の効果の及ぶ期間」で毎年毎年定額で費用化していきます。これを「のれん償却」といいます。

「20年以下の効果の及ぶ期間」は、会社ごと、案件ごとに決める必要があります。
最大20年間にわたり損益に影響することになるので、監査法人もここは慎重に会社側の理屈を吟味してくることになります。

償却期間が短いほど、単年度の連結損益に与える影響が大きくなり(単年度利益を下押し)、長いほど単年度の損益への影響は小さいけど長い期間影響が残る、ということで、長期間のトータルではもちろんイーブンになるのですが、当面の期間損益への影響という意味では償却期間の長短が大きなファクターとなります。

一方で、「負ののれん」が出た場合は、【出た期の特別利益で一括処理せい!】という会計基準になっています。
【安く買った恩恵を毎年毎年利益として受けられると思うなよ】という思想なのかはよく知りませんが、一時的な利益として処理してしまわねばなりません。


3.償却については会計基準間でルールが異なる

ここまではすべて「日本基準」を前提に話を進めてきました。

昨今、「IFRS国際会計基準)」を導入する日本企業も随分増えてきました。

どうでもいいですが、「IFRS」なんて読むのが主流なんですかね。。
私は「イファース」と読んでますが、「アイエフアールエス」と言う人もけっこうな割合いらっしゃいますね。
ごくまれに「アイファース」という人もいてます、どうでもいいです。

で、「IFRS」。
IFRSでは「のれんを定期償却しない」のがルールです。

日本基準では毎年一定額(最長の20年償却でものれん金額の1/20)が費用になりますが、IFRSでは毎年の費用が出ないんですね。
その分IFRSのほうが利益が高く出ます

なので、のれんをたくさん抱える企業が日本基準⇒IFRSに切り替えた場合、単純にのれん償却分だけ利益がかさ上げされることになります。
まぁ、かさ上げされたと言っても、見えてる利益は利益に違いないわけですが、「本業でより稼げるようになったというわけではない」ことは頭に置いて数字を見る必要はあると思います。

あと、もっと恐ろしいのは、IFRSの場合、
【のれんの定期償却は許してやる。けど毎年「減損テスト(=のれんの資産価値が本当にあるのかのチェック)」をやって、価値がないんなら一気に費用にしてもらうからよろしく】というルールになっています。

特定のM&A案件に起因するのれんが多額にある場合、その買収先がうまく回らなくなると、一気に多額の減損を出さないといけないということです。
のれんがたくさんある会社については、こういったリスクがあることは頭においておく必要があります。

実際には、子会社の業績までわからないケースがほとんどなので、大丈夫なことを祈るしかないんですけどね・・。


4.今朝の日経記事

のれんの減損損失は世界的に増えているようですが、そもそものれんの総額が増え続けてて、減損の比率自体が上がってるわけではない、という切り口ですね。

世界的に景気が耐えてる間は大きく話題になることもないのかもしれないです。

これがリセッションと呼ばれる状態になってくると、業績が悪くなる⇒のれん価値が薄くなる⇒減損急増、となるリスクは当然にあります。
また、そのときにはそもそものれんを計上してる親会社の業績も悪化するでしょうから、ダブルパンチ的に効いてくることが想定されます。

こういう世の中でもあるんで、普段貸借対照表をあまりご覧になられないという方も、たまに立ち止まって眺めてみると思わぬ気づきがあるかもしれないですね。


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